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ODA民間モニター・バングラデシュ視察記

本田 達也

 十一月二日から七日まで、「ODA民間モニター」の三重県代表としてバングラデシュを視察してきました。

 ODAとは日本から途上国への政府開発援助のことです。日本が行っているODAの総額は国民一人あたり約一万一千円、その内、バングラデシュへの援助は国民一人当たり約二百円で、バングラデシュが各国から受けている援助では、日本からの援助が一番多いそうです。外務省は今年から、各都道府県の民間の代表を1名ずつ、地域ごとに六か国へ派遣しODAの実情を見てもらおうという粋な制度を作ってくれました。東海・北陸からは、私のほかに、主婦、会社社長、料理教室の先生などさまざまな職業を持った9名が参加しました。

 バングラデシュというと、どういうことを思い浮かべますか。インドの東か西の洪水の多いところ・・・。私もモニターに決まるまでは、その程度の知識しかありませんでした。しかし、今回は、前提知識がない分、先入観もなく、素直な気持ちでバングラデシュを訪問することができました。

 ダッカ空港からホテルまでの約一時間のマイクロバスでの移動は驚きの連続でした。派手に彩ったトラック、満員で屋根にまで客を乗せたバス、鳴り響くクラクション、車の間を縫って走るリキシャ(日本の人力車が起源)など見るものすべてが珍しく、モニターはみんな歓声をあげ、シャッターを切っていました。しかし、まもなく、歓声もシャッターを切る音もなくなりバスの中が静まり返りました。赤ん坊を抱いた母親や5,6才くらいの子供が窓ガラスをたたき、物乞いに来て、バスに合わせてどこまでも追いかけて来るのです。カルチャー・ショックでした。それから、毎日が驚きの連続でした。そこで痛感したのは、日本が物質的にいかに豊かかということです。街には、六十年代の車が走っています。現地の日本人の方に聞いた話では、ホテルなどから出た残飯は、最終的にはスラムの人々に回り、廃棄されることがないそうですし、ポリ袋も何度もしわを延ばして使うそうです。一言でいえばたいへん貧しい国ですが、ある意味では究極のリサイクル社会が成立しているとも言えます。

 バングラデシュでは、イスラム教が八十七%を占めています。このイスラム教が国の発展を遅らせている大きな原因の一つになっています。一例を挙げると、女性の地位がたいへん低く、出歩いてはいけない、子供を数多く産まなければいけない、家庭では自分の子供よりも地位が低い、働きに出ることも許されないなど数え上げたら枚挙に暇がありません。宗教が国の発展を妨げることは途上国ではままあることですが、バングラデシュは、その最たる国です。

 今回の視察では、バングラデシュの国土を東西に二分しているジャムナ川に架かったジャムナ橋や、首都ダッカの子供病院、オイスカ農村婦人研修所、ナリ・マイトレ母子健康診療所、グラミン銀行などを見学したほか、現地で活動している青年海外協力隊員やJICA(国際協力事業団)の専門家と家族の方々、NGOのボランティアの方々とお話する機会がありました。もちろん、援助を受けているバングラデシュ国民(ベンガル人)とも直接話ができました。

 日本からの援助は、お金やモノに偏っていて、よく「顔が見えない」と言われますが、橋や道路を整備してもらい、暮らしが豊かになったということを現地の人々からお聞きしました。「モノの援助がいけない」という図式的な批判は当たらないと思いました。また、宗教上の因習に囚われた女性の自立を助けたり、貧しい子供たちに手をさしのべたりと、ほんとうによく「顔の見える」ものが多くありました。会社を辞めて灌漑用ポンプの修理技術を指導している青年海外協力隊員、二十歳で初めて農業を志し、野菜作りを通じ農村の婦人たちの自立を支援しているNGO指導員の方など、人的な面、物的な面で、日本からの援助が、少しずつですが確実にバングラデシュに浸透していっているのを目の当たりにしました。懇親会の席上では、専門家の方から、「援助を受ける側の実情にあった技術レベルでないといけない。ハイテクよりも江戸時代くらいのローテクの方がいいことがある」というお話をうかがい、押しつけではいけないということも感じました。

 余談ですが、ベンガル人にとっては、日本人は「美の象徴」ということで、私たちも行く先々でたいへん歓迎してもらいました。

 今回視察に参加したモニターは、宿泊は外国人専用のホテル、移動は大使館のマイクロバスで、期間も短く、本当にバングラデシュの中に入り込んだとは言えませんが、バングラデシュの人々や、ODA活動に従事する日本人青年隊員や専門家、NGOボランティアの方々に日本人が無くしかけた、あるいは、無くしてしまった大切なものを見つけたような気がしました。バングラデシュを後にする日、モニターの人たちと、もう一週間いや一ヶ月いたいね、と話しました。

 たいへん貴重な経験をさせていただきました。



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