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東ティモール~やさしくてつよい人びと~

佐野 淳也

 ティモール・ロロサエ。昨年の秋、ついに独立を達成した国の名だ。ロロとは、「太陽」のこと。そしてサエは、「昇る」。つまり"陽が昇る国"。このインドネシアとオーストラリアの間の、ティモール島の東半分に住む人びとは、自分たちの国を、永らくそんなふうに呼び習わしてきた。

 そのティモール・ロロサエが、自らの手で「自由」を選び取ったのが、昨年8月30日に行われた住民投票だった。「投票に行けば、命はない」というインドネシア派民兵集団による脅しと暴力のなか、人びとはこの直接投票に98.6%という驚異的な投票率を示し、さらに78.5%が独立支持、という圧倒的な投票結果を残した。ある男性は、国際機関職員に対し次のように語っている。「わたしは4時間かけて投票所まで歩き、投票を終えて帰ってきました。するとわたしの家は民兵たちによって燃やされていました。でも投票に行って良かった。家はまた作り直せますが、この投票はわたしたちにとって一度切りのものだからです。」

 しかし同年9月4日、民兵たちによる全面的な破壊と虐殺がはじまり、市街地の 70-80%が壊され、焼き払われてしまった。その"焼け跡"のなかにいま、ティモール人たちは立っている。わたしたちは彼らに、どのような支援ができるのだろうか。それを探るため、わたしは2月10日より2週間、地元徳島のNGOの調査員として、現地を訪ねた。

 アドリアナ・ジョン氏。47歳。西ティモールとの国境沿い、ボボナロ県マリアナ市に家族と暮らす。「これからはインドネシアとも友人としてつきあいたい」と語る彼は、2週間の滞在中で出会った印象的な人物であった。地区の小学校教員として働く彼は、CNRT(ティモール民族抵抗協議会)の県副議長でもある。CNRTはさまざまな政党・抵抗運動が統合されたティモール人組織。1988年結成のCNRMがその前身だ。議長を務めるのは大統領候補として国民から圧倒的支持を集めるシャナナ・グスマン氏。副議長には、1996年にベロ司教とともにノーベル平和賞を受賞したラモス・ホルタ氏が就任している。

 「わたしはフレテリン(ティモール独立革命戦線)の党員だったために1991年から7年間投獄され、その間インドネシア軍による拷問を幾度となく受けました。また今回の住民投票直後には、民兵がわたしを殺害しようとしましたが、山中に家族とともに逃げ込み、一命をとりとめました…。」アドリアナさんは終始おだやかな表情で自分の体験を語ってくれた。そしてこれは独立のために闘ったすべてのティモール人たちに共通する体験でもある。

 現在、東ティモールは国連の暫定統治下に置かれており、国家として完全独立を果たすまでの間、UNTAET(東ティモール国連暫定統治機構)が行政や治安維持を担っている。しかし住民リーダーたちとの関係は必ずしもうまくいっていない。この 3月6日にUNTAETを辞職したジャラット・チョプラ氏は、国連が独立に向けた具体的なスケジュールを設定しないこと、また幹部職員が自らの昇進に汲々としている現状を非難した。さらにCNRTのなかには、国連統治をインドネシア支配と同列にみなし、新植民地主義として批判する声さえある。

 こうした現状のなか、ティモール人自身による復興・国造りも着実に始まっていた。現地NGOの代表的存在、ヤヤサン・ハック(ティモール人権基金)は、従来の人権擁護活動に加え各地での食糧分配や地域経済の復興にとりくんでいる。またフォクパス(東ティモール女性交流フォーラム)は心にトラウマを負った女性たちへのカウンセリングや、家族を無くした女性たちの共同住宅の運営をも行っている。また東ティモールに帰還してくる"併合派"の住民(ときに元民兵だった住民も含まれる)と、他の住民との間の「和解」プログラムを展開しているNGOもあった。さらに自ら労働現場に入り込み、労働組合を組織している学生活動家たちにも出会った(以前は労働組合活動が禁止されていた)。

 自由を手にしたティモール・ロロサエの人びとは、今なお多くの苦難のなかにいる。しかし25年間にわたる抵抗運動のなかで培われた人びとの絆は、決してくじけることなく自らの未来を掴み取っていくだろう。わたしたちの側にも、隣人として彼らと結び合うべき多くの未来がある。

● 筆者プロフィール

 1971年、徳島市生まれ。日本福祉大学卒。震災後の神戸で仮設住宅への生活支援に携わったのち、インド・マドラス市に現地NGOのインターンとして1年間滞在。その後、東京の大学院で社会学を学ぶ。4月からは徳島県社会福祉協議会で勤務。 第十堰住民投票の会メンバー。

○徳島で国際協力を考える会(TICO)○
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