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フィリピン・ルソン島 「コミュニティー・トレード」のお話

フェア・トレードくらぶ金沢 葛葉

 「フェア・トレードって何ですか・・・?」うちの店では、「経済的に弱い立場にあって不公平な扱いを受けることの多い人達・・南の国の小農民・僻地住民・少数民族・未亡人・スラム住民・障害のある人達・・・などの間に仕事を創り出し自立を支援する、そのことを通じて、お互いの生活の質を考える」といったふうにお答えしています。「人と環境を考える貿易」「チャリティーでなく仕事づくりを」などなどキャッチコピーは場所・場面によっていろいろなようです。

 言葉の中身が固まってくるのにはまだ少し時間が必要かもしれません。フェア・トレードの生産者団体、輸入団体、ショップともに、それぞれの特色があり、やり方が違う部分もとても大きいのですが、今日はほんの一例で、97年春、フィリピン・ルソン島でかごなどを輸出している港町で見聞きしたことを。

 この町では、日本のフェア・トレード・カンパニー/グローバルヴィレッジさん、イギリスのオクスファムなどに商品を送っています。ボディショップも、「コミュニティー・トレード」と名づけてこの町から品物を仕入れています。小さい町のどこへいっても、皆がせっせとかごを編んでいる風景がありました。

 マニラからバスで12時間かかる、電話線のきていない町で、海をわたるオーダーをこなすのは大変。注文は、マニラにある団体を通じて最寄りの町までFAXで来て、そこからは長距離バスの運転手さんが「バス便」で持ってきます。事務局では、生産者グループに注文を割り振り、てくてくと徒歩で届けに行きます。訪問先が留守ならば出直しなのです。

 この生産者団体では、貧しい家の子どもでもごくわずかのお金で入ることのできる幼稚園を経営しています。(収入のある家の子は正規の料金を払う。人数の割合は半々)さらに、卒業して公立の学校に進んだ子ども達でも、鉛筆やかばんの支給を受け、必要があれば毎日の昼ご飯も食べにこれます。おかげで、栄養状態の悪い子はいても、栄養失調まではいかないそうです。その他、低所得者のための無料住宅サービスや、組合員ならつけのきく小さなお店を経営しています。

 「売上で今一番したいこと?町に自分達で医者を雇いたい。政府はやってくれないからね。この前も運ばれる途中で手後れになった人がいたし。給食サービスは絶対続けていきたい。日本のグローバルヴィレッジは、注文量はそんなに多くないけど、毎年必ず注文をくれるから嬉しい。日本から注文がずっとくればと祈ってる。」

 私の店で人気のある商品を、考案した人が近くに住んでいたので訪ねてみました。事故に遭って義足になり、仕事を無くしましたが(夫は事故の後蒸発)娘2人を手工芸品の収入で育て上げたいと語っていました。2人の将来の夢は「看護婦さん」2人とも、手工芸品組合の援助を受けて、幼稚園と学校に通っていました。

 外国からデザイナーが来て皆で研修を受けたりして、手工芸品のレベルは年を追って上がってきており、今年はマニラでのショーに出品し、国内での大口の注文をとりつけて張り切っているところでした。

 ちょうどその幼稚園の卒園式に出席することができました。日本代表(!)で挨拶を、と頼まれ、式の最初にこう挨拶しました。「いつもすてきな商品をありがとう。どんな人達が作っているのか知りたくて来ました。こどもたちの健康な成長を、これからも私たちのオーダーで支えていけるなら、それはとても誇らしいことです。」皆さんとても喜んでくれて、拍手と握手をたくさん頂きました。

 ある生産者のリーダーの家で、私もかご作りに挑戦しながら、お母さん達といろいろ話をしました。(フェア・トレードの生産者はみな貧しい、というイメージを日本のお客様はもっていらっしゃると思いますが非常に質素な暮らしの人もいれば、中には割にきれいな格好の人もいました。ちいさなコミュニティーの中での仕事作りですから組合員になる資格にあえてキメキメの基準はここではないようでした。)

 「手工芸品の仕事があることで何が一番いいかっていうとね・・・。旦那に仕事がないときでも、うちにいて現金収入が得られること。学校にいけない若い子達も、マニラにいかなくてもすむようになった」

 「マニラに行かなくてすむ。」このことは本当に大きなポイントのようです。フィリピンの他の多くの漁村と同じく、もともとはとても豊かな漁獲量を誇っていたこの町でも魚が取れなくなり漁では生活が成り立たなくなっています。(日本や韓国など外国との貿易協定の結果ほんの数年間に魚が捕り尽くされたのだとの批判があります。)田舎の生活が壊されてしまって、土地や生業を失ってマニラに流れていく人達は、行く所がなければゴミ捨て場に住みついたりしています。その日の糧を探して、目を刺すような刺激臭のなかゴミの山に登る人達。道にうずくまり物を乞うこどもたち。同じぼろを着ていても村で手工芸品を作る母親のそばにいる子どもとマニラの街中で物乞いをしている子どもの表情は私には大きく違って見えました。もちろん、ゴミの山で自分の道を見つけるこどもたち、そのなかでの家族の形、はあると思います。ただ選択肢として、村(コミュニティー)に残るという道が取り上げられることがない、ということはとても大事なことだと思えました。

 「フェア・トレード」が目指すもの、「フェア・トレード」で目指すもの、にはとてもたくさんの形があるようですが、まず人間らしく生きていくことが出来るコミュニティーを作っていけること、そのなかでの選択肢が広がることを願っています。そう願うことで、私たちも、常に自分たちの暮らしの質を振り返って考えさせられることになるのですが。



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